内容証明郵便が証明すること、しないこと
ポストに不在票が入っていて、郵便局で受け取ると、差出人の欄に知らない弁護士の名前がある。開けると、慰謝料の請求と、支払いの期限が書かれている。初めて手にする人には、封筒を開けるだけでも怖い郵便です。
日本郵便の説明では、内容証明は、いつ、どんな内容の文書を、誰から誰あてに差し出したかを、差出人が作成した謄本によって日本郵便が証明する制度です。謄本とは、送った文書を写した書面のことで、差出人と差し出した郵便局がそれぞれ保管します。内容証明は、一般書留として送る必要があります。
ここで押さえておきたいのは、日本郵便が証明するのは文書が存在することで、文書の内容が真実かどうかを証明するものではない、という点です。
つまり、内容証明で届いたからといって、そこに書かれた事実や金額が、公的に認められたわけではありません。証明されているのは、「この日に、この文面が、あなたあてに送られた」ということです。
もう1つ、謄本は差出人の手元にも残ります。送った側は、あなたに届いたのと同じ文面を持っています。この先のやり取りは、その文面を前提に進むと考えておきます。
届いたときに、やってはいけないこと
内容証明の文面は、強い言葉で書かれていることがあります。「期限までに支払いがない場合は、法的措置をとります」のような一文を読むと、すぐに何かしなければと焦ります。焦ったままやりがちなことを、先に挙げておきます。
受け取らない、開けずに置いておく
不在票を見て、差出人の名前で中身の見当がつくと、受け取りに行きたくなくなります。受け取っても、開けられないまま机の引き出しに入れてしまう人もいます。
けれど、読まないうちは、誰が、いくらを、いつまでに求めているのかが分かりません。分からないまま期限の日が過ぎていきます。受け取って、開けて、読む。ここまでは、その日のうちに済ませます。
読んだら、次の4つを紙に書き出します。
- 誰から:差出人の名前と、弁護士なら誰の代理人か
- 何を根拠に:どんな事実が書かれているか
- いくら:求められている金額
- いつまでに:書かれている期限の日付
「10月3日受け取り。差出人は配偶者の代理人の弁護士。期限は到達から2週間」のように1行で書いておけば、相談のときにそのまま見せられます。書き出すのは、書かれた内容を認めるためではなく、読み落としを防ぐためです。
書かれた番号にすぐ電話して、事情を話す
文面に弁護士事務所の電話番号が書かれていると、電話で説明すれば分かってもらえる気がします。けれど、電話で話した内容は、相手のメモや記録に残ることがあります。あなたが何をどこまで認めるかは、自分の弁護士に相談してから決めることです。
先に連絡を入れる必要を感じたときも、「弁護士に相談してから返事をします」とだけ伝える方法があります。
指定の口座に、その場で振り込む
期限と口座が書かれていると、払ってしまえば終わる、と考えたくなります。金額が払える範囲に見えるときほど、その考えは強くなります。
払うかどうか、いくらなら払うのかは、書面を読んだうえでの個別の判断です。振り込みは、弁護士に書面を見てもらってからにします。一度振り込んだお金が、あとでどう扱われるかを、あなたはその場で確かめられません。
彼の家や、彼の配偶者に直接連絡する
差出人が彼の配偶者の代理人なら、配偶者に会って話せば収まると考える人もいます。けれど、直接の連絡は、新しいやり取りを1つ増やすことになります。彼の家を訪ねること、配偶者に電話やメッセージを送ることは、この記事では勧めません。
彼に内容証明が届いたことを伝えるのはかまいません。ただし、どう返事をするかは彼と決めず、あなたの相談先と決めます。
書かれた期限の扱い
内容証明には、「本書到達後2週間以内に」のような期限が書かれていることがあります。この期限は、差出人が文書に書いたものです。
期限が書かれていたら、まず、その日付をカレンダーに書き込みます。そして、その日より前に弁護士に相談できるよう、予約を入れます。期限を過ぎたときにどうなるのか、期限を延ばしてもらえるのかは、文面と状況によるため、相談の場で確かめます。
時効の条文
交際から時間がたってから内容証明が届くと、「もう時効では」と考える人もいます。時効については、民法150条が「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と定めています。同じ条の2項には、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない、とあります。
届いた内容証明が、この条文の「催告」に該当するのか、あなたの場合に時効がどうなるのかは、条文を読むだけでは判断できません。弁護士に相談して確かめる事項です。自分で「もう時効だ」と決めて放っておくことはしません。
裁判所から郵便が届いたとき
内容証明のあとに、裁判所から訴状が届くこともあります。裁判所の説明では、被告が欠席した場合には、答弁書などで原告の請求を争う意図を明らかにしていない限り、原告の請求通りの判決が言い渡される可能性があります。答弁書は、訴状に書いてある原告の請求や主張に、被告が返答する書面です。
届いたものが日本郵便の内容証明なのか、裁判所からの郵便なのかを、差出人の欄で確かめます。裁判所の郵便が届いたときの注意は、慰謝料を請求された側は、まず何を確認すればいいのかにまとめています。
相談先と、費用が心配なときの制度
内容証明への返事を、自分だけで書く必要はありません。弁護士に相談し、返事をするか、どう返すかを一緒に決めます。
相談に行くときは、次のものを持っていきます。
- 届いた内容証明と封筒(不在票があれば、それも)
- 書かれていた期限をメモしたもの
- 交際が始まった時期、彼が既婚だと知った時期を、日付で並べたもの
弁護士の費用が心配なときは、法テラスの制度があります。法テラスの説明では、民事法律扶助業務は、経済的に余裕がない方が法的トラブルにあった時に、無料で法律相談を行い、弁護士・司法書士の費用の立替えを行う業務です。相談は、全国各地にある法テラスの事務所や、法テラスと契約のある弁護士・司法書士の事務所などでできます。費用の立替えの利用には、収入や資産が一定基準以下であるなどの条件があり、審査が必要です。あなたが条件に合うかどうかは、法テラスに問い合わせて確かめます。
どこに相談すればいいか分からないときは、法テラス・サポートダイヤルに電話する方法もあります。専門のオペレーターが、問い合わせの内容に応じて、法制度や相談機関・団体などを紹介します。オペレーターは個別の法律相談や法的判断は行わず、個別の法律相談を望む場合は法律相談の窓口を案内する、とされています。
あなたの手元にある書面は、どれか
最後に、いま手元にあるものを確かめます。
- 差出人が弁護士で、内容証明として届いた書面
- 差出人が彼の配偶者本人で、内容証明で届いた書面
- 内容証明ではない、普通の手紙やメッセージ
- 裁判所の名前がある郵便
どれであっても、受け取って読み、期限をメモし、電話や振り込みは相談のあとにします。書面が届いたのは、あなたが何かを認めたからではありません。差出人が、この日にこの文面を送った。いま確かなのは、そこまでです。